
HTM講座第4回 「数学的推論をはじめよう」
How to Think like a Mathematician-「HTM講座」の第4回です。
前回は、形式的推論と経験に基づく推論の違いを感覚的に味わっていただきました。
そして今回より、「数理論理学」のレクチャーに入ります。
ガイダンスでもお話したとおり、数理論理学は数学全体を支える土台となる部分で、この講座での習得目的となっている「数学者のような思考」の骨格にあたります。
数理論理学は、「数学的推論(mathematical reasoning)」を研究対象とする学問分野です。
「数学的推論」は、数学の中で中心的な役割を果たす概念であり、数理論理学がまさにその形式化と分析を目指している対象です。ここではその本質と分類、形式体系(どのような形に落とし込んでいくか)に分けて、説明します。
◆ 数学的推論とは何か?
定義的に言うと:
数学的推論とは、「ある前提(公理や既知の命題)から、論理的に正当な方法で結論(命題)を導く思考の過程」です。
つまり、以下のような構造を持ちます:
前提(Premises) + 論理的手続き(推論規則) → 結論(Conclusion)
数学的推論とは、「論理に基づいた思考によって、前提から必然的な結論を導く営み」であり、数学の生命線です。数学では、「この結論はなぜ正しいのか?」を問うと、必ず何らかの「推論」に行き着く、ということになります。
◆ 推論の種類:分類と例
数学的推論にはいくつかの基本的なタイプがあります。
1. 演繹的推論(Deductive Reasoning):最も標準的な推論形式。一般的な原理から個別の結論を導く。
例:
公理:「任意の偶数は2で割り切れる」
命題:「8は偶数である」
結論:「ゆえに、8は2で割り切れる」
2. 帰納的推論(Inductive Reasoning):個別の事例から一般的な法則を推測する。これは厳密には証明ではないが、仮説形成の場面で重要となる。
例:
「2, 4, 6, 8... はすべて偶数 → 一般に、2nは偶数だろう」
帰納法(後述)と混同されがちですが、「観察から法則を見つける」推論です。
3. 数学的帰納法(Mathematical Induction):形式的には演繹法の一種。自然数に関する命題を証明するための方法。
基本構造:
基底: 命題P(1)が真であることを示す。
帰納段階: P(n) ⇒ P(n+1) を示す。
結論: すべての自然数nに対してP(n)が真である。
4. 背理法(Reductio ad absurdum, 証明による反証):仮定が偽であることを示すことで、逆の命題が真であることを導く。古代ギリシア以来の方法。
例: √2が無理数である証明
5. 構成的推論(Constructive Reasoning):何かの存在を「実際に構成してみせる」ことで証明とする。
◆ 数理論理における形式化
数理論理学では、上記のような推論を「形式体系」として表現し、それを以下のような枠組みに落とし込みます。
1.形式言語:記号だけで書かれた論理式(命題論理、述語論理など)
2.推論規則:モーダスポネンス(P, P→Q ⇒ Q)など。論理式P,Qが任意に与えられたとき、「PならばQである」と「Pである」という2つの前提から「Qである」という結論を導く推論規則を含意除去、モーダスポネンスなどと呼びます。
3.証明:有限長の記号列で、推論規則によって生成されるもの
4.証明可能性:命題が証明可能かどうかということ。命題は「真」または「偽」のいずれかの値を持つ文のこと。「証明できるかどうか」ということと「真であるかどうか」ということは別であり、「真だけど証明できない命題」も存在します。
・・・数理論理学は、推論をこのような形式体系に落とし込んで厳密に記述し、その限界と可能性を明らかにする枠組みといえます。
では、次回はさらにこのテーマを掘り下げていきましょう。