
HTM講座第6回 「直感を論理のことばに翻訳する」
HTM講座第6回の講義です。
前回は「証明の設計図のつくりかた」というテーマで、皆さんにも実際簡単な証明を作ってもらう体験をしていただきました。
【命題】
生きている:P
死んでいる(生きていない):Q
【前提】
「生きている:P」または「死んでいる(生きていない):Q]のいずれかの状態をとる。
この材料を使って「PまたはQ」が真だと仮定し、「Pではない」場合に残る可能性としてQが結論となる、という論理構造を記号で表現してみてください、という課題を出したところで前回のレクチャーを終えてますので、まずこの解説から入りましょう。
これは一見、パッと見ただけでは「どうやってQにつなげるの?」と迷うかもしれません。でも、一歩ずつ構造を整理して、それを形式に落とし込んでいきましょう。
・「PまたはQ」(P ∨ Q)が真だと仮定
・しかし「Pではない」(¬P)とも言われている
・すると、残る可能性は「Qである」しかない
上の3つを論理式に落とし込んでやると、次のようになります。
P ∨ Q, ¬ P ⊢ Q
なお、「 ⊢」は、「形式に従って推論した結果(証明)」を表す論理記号です。が、前回これはお伝えしていなかったので、代わりに
(P ∨ Q, ¬ P)→Q
などとしてもらっても結構です。大切なのは、他人が作ったルールを丸暗記することではなく、構造を理解したうえで結論を自力で引き出し、自分自身で各表記の定義を行い、それを他人に説明できるようにすることです。
ちなみに、これは「選言三段論法(disjunctive syllogism)」と呼ばれる規則に該当しますが、厳密には「推論規則」と呼べるほどのパワーはなく、実際証明に用いる際は背理法と組み合わせるなどする必要があります。
とにかく、前提が真ならば、その帰結も真でなければならない。
P → Q, P ⊢ Q
これが「モーダス・ポネンス(modus ponens)」という最も基本的な推論規則のひとつです。
今は基礎的な段階ですので、複雑な例は出しませんが、複雑な問題に直面したときでも同じです。
「どういう論理構造が読み取れるか」「結論をどこから引き出すのか」「どこから攻めればいいか」・・・
数学者(数学の専門家)は「なんとなく正しそうだ」と思うことがあっても、それをそのままにはしません。「なぜ正しいといえるのか?」の論理的な道筋をたどり、構造を明らかにすることを重視します。
これが「推論の構造を読み取って、攻める順序を決める」というプロの思考法の基本です。
そのとき、「命題論理」という形式的道具が「直感を検証するための足場」として役立ちます。
これはいわば、「頭の中で考えた内容を、論理のことばに翻訳する」作業です。
さて、次回は、さらに一歩進んで、「述語論理(predicative logic)」の世界に入ります。
命題論理が「○か×か」の世界だとすれば、述語論理は「何(誰)について?」、「何を満たせば何が言える?」といった問いに答える、より柔軟で表現力のある論理体系です。
「すべての〜について…が成り立つ」といった主張をどう形式化し、証明するのか――数学的推論の幅がぐっと広がる瞬間です。