
HTM講座第7回 「精密さと表現力のデザイン」
HTM講座第7回をお届けします。
前回は、命題論理を使って「直感を論理のことばに置き換えてみる」実践をしていただきました。
さて、今回は次のステップとして「述語論理」を取り上げます。
命題論理から述語論理へのステップは、単に「記号が増えた」ではなく、推論の“精密さ”や“表現力”が飛躍的に高まるという本質的な変化です。
それでは、次の文(命題)を、命題論理のみで表現してみてください。
「すべての偶数は2で割り切れる」
命題論理は、ひとかたまりの文をとらえるものなので、
「P:すべての偶数は2で割り切れる」
とする他なく、この文に含まれている「偶数とは何か」「割り切れるとはどういうことか」などの情報が抜け落ちてしまいます。
これでは推論の「構造」に踏み込むことができません。
さらに、命題論理の限界を理解するために、次の課題に取り組んでみましょう。
次の主張を命題論理でどこまで扱えるかを考えてみてください。
・すべての猫は哺乳類である
・チャチャは猫である
・よってチャチャは哺乳類である
→ 命題論理で扱うとすると、
P:すべての猫は哺乳類
Q:チャチャは猫
R:チャチャは哺乳類
それで、 P ∧ Q → R という形式で表現できそうですか?
これで成立するように思えるかもしれませんが、「で、チャチャはどこいった?」などの肝心な情報がごそっと抜けてるように感じませんか?
そこで、一歩進めて「述語論理」を使います。
個体:Chacha
述語:Cat(x), Mammal(x)
全称:∀x (Cat(x) → Mammal(x))
特定事実:x=Chacha
という表記ルールを当てはめてみましょう。
(ちなみに∀は「すべての」を表す「量化子」です。
∀xは、「すべてのxについて」という意味で、∃xは「あるxについて」となります)。
上の材料を使って、
∀x (Cat(x) → Mammal(x)),x=Chacha ⊢ Mammal(Chacha)
とし、「チャチャは哺乳類」という結論が形式的に導き出せました。
述語論理を使えるようになったことで、「対象」と「性質」の「関係」を記号で操作できるようになりました(さらに量化子を使って、「全体」や「一部」ということも表現可能)。
「ある男はすべての猫を愛している」を、
∃x (Man(x) ∧ ∀y (Cat(y) → Loves(x, y)))
と書いてみたりと、“精密さ”や“表現力”が飛躍的に高まるのを実感できます。
つまり、述語論理によって構造がみえてきて、より精密で深い推論ができるようになる、ということ。
また、前提から結論を論理的に導けるかどうかが形式によってわかる。つまり、証明の正しさを定めることができるということ。
これこそが「数学的推論」の本質であり、数学の骨格そのものといえます。
最後に応用問題を一つお出ししますので、ご自分で考えてみてください。
【問】 以下の命題を命題論理/述語論理で記述し、何が見えるか比較しましょう。
命題: ある偶数は素数である
次回、述語論理の世界をさらに深め、現代数学の構造の本質に迫ります。